魔笛公演をご覧になった皆さまのレヴューをお待ちしております。それまでワタクシのレポートを掲載させて戴きます(手前味噌ですみません)。


2002年7月13日(日)本公演 18:30開演

今年度の「NPO・みんなのオペラ」魔笛公演に行って参りました。私が聴いたのは7/13の本公演、キャストはAキャストです。
2ベルが鳴り、暗天になると岡村先生がザラストロの(様な)衣装で登場します。いつの時代、どこの国とも知れない不思議な笛と鈴のお話について、解説が始まりました。
まず始まって驚いたのは今回の岡村演出でした。ドイツ語で歌われるアリアの歌が途切れた合間にその訳のナレーションが岡村先生によって挿入されるのです。もちろん歌を中断させるのではなく、歌手の息継ぎの間、 歌の間に一言二言、先生の声が入ります。アリアの同時通訳、と言う感じだったでしょうか?しかし決してずっと説明しているのではなくてポイントだけを押さえてポツ ッと訳が入るので、アリアを損ねずして意味を汲み取れるという非常にわかりやすい展開でした。
役作りもはっきりしており、絵姿一枚で恋に落ちてしまう直情青年タミーノは国の再建に女はいらん!とか豪語するくせに絵姿をみた瞬間にその同じ口で「私の愛にかけて!」とか言ってしまう。この間わずか数分。いつもクソまじめで表情が硬く、もしかしてこの王子様、子供はキャベツから生まれると信じているのでは?なんて思ってしまいました。俗人の欲望を明るく表現するパパゲーノ、カーテンコールで彼への拍手が一層大きかったのは歌唱の素晴らしさに加えて愛すべきキャラクターをうまく演じていたからだと思います。ミョーに色っぽい三人の侍女はみんなグラマーだし(スリットから覗く足が綺麗だった)、若くてハンサムな王子が自分に恋をしたと知っただけで自分も恋しちゃう純情なパミーナは絵本から出てくるお姫様、精一杯に女の虚勢を張って肩で風を切る夜の女王は部下を抱えてオフィスで奮闘するキャリアウーマンの様でした(もちろんもっとエレガントでしたが・・)。
そして皆さまもご存知のとおり、魔法の笛と鈴はザラストロの城を守る動物たちも眠ってしまうほど優しい音色を持っています。この動物たち、私が今まで見たことのある演出ではライオン、サル、キリン、カバ・・・と言った、どちらかと言えば南の地方の動物が多く、ザラストロの宮殿でオシリスとイシス、と出てくるようにエジプトとかあちら方面のイメージを持っていました。が、今回の動物には「ペンギン」がキャスティングされており、正直言ってハテナマークでした。しかもこのドーブツたちが主役と張るくらいに出ずっぱりで、パミーナの行くところにひたすらついて行き、とうとう最後は火と水の試練にまで一緒に行ってしまいます。ところが水の試練になったらそれまでチョコチョコ歩いていたペンギンがすっくと立ち上がり、水に向かってダイビング!!!・・・あとで伺いましたところ、この水の試練で活躍するためにペンギンがキャスティングされたとのことでした。(さすが・・)
あと、驚くべきは合唱の迫力!なんか妙に上手くてド迫力で、あの人々は誰なのだ?と思っておりましたらなんとBキャストのソリストたちが合唱として歌っていたと言うことでした。もちろんBキャスト公演の時はAキャストのソリストたちが合唱として参加するのだそうです。なんて贅沢、しかしこれぞ省エネオペラ!

ザラストロ一派の太陽を表す赤い衣装、夜の女王一派の黒い衣装、性別を超えた三人の天使の白い衣装。また世の調和を図るザラストロと権力に対して偏執した夜の女王をはっきりと色分けした背景パネルの動きに加え、序曲のなかに組み込まれているそれぞれのテーマも解説され、細部に渡り配慮の行き渡ったオペラでした。これなら前知識なしで公演に出かけても問題はありません。
最後はザラストロをトップにしてひな壇上に人間のピラミッドが構成され、その上に男でも女でも人でもない三人の天使が配置され、その手に魔法の笛と鈴が擁かれます。究極の愛と平和の形?かもしれません。

神奈川フィルさんは管が美しかったです。しかし全体的に音がほんわりと聴こえたのはホールのせいでしょうか、私の座席のせいでしょうか、オケピットとして仕方のない部分なのでしょうか。
男装の麗人・マエストロ松尾の指揮姿がカッコ良かった!

来年は新演出の蝶々夫人とのことです。神仏混同の日本誤認を改め、アリアは日本語とイタリア語の両方で歌われるそうです。
何れこの正しい解釈が聴衆に支持され、マダム・バタフライのグローバルスタンダードになる日が来るのではないかと思います。そう思うくらい、今回の魔笛も私たち庶民に近付いた身近な解釈だったと感じました。
お席もほぼ満席でしたが、より多くの方々に観て聴いて欲しい、真の民衆の娯楽たるオペラ公演でありました。

2002.7.14
shirai