「これから始まりますのは何時とも何処ともわからぬ国での魔法の笛と鈴を巡るおとぎ話でございます」。オペラ歌手・岡村喬生のナレーションで幕が開く。9月10、11の両日、ティアラこうとう(東京)で行われた、NPOみんなのオペラの「魔笛」だ。楽歴、国籍などに制限のない公募オーディションへの応募数は144人。レベルの高い歌唱を聴かせる勝又晃、福山出、大場恭子、二宮咲子らが選ばれ、指揮を松尾葉子、オーケストラは東京ニューシティ管弦楽団が務めた。
 芸術総監督・岡村の演出は、登場人物が多い「魔笛」をシンプルで分かりやすく面白い舞台に仕上げた。セットの4枚のパネルと衣装は、ザラストロ一派(赤)と夜の女王一派(黒)の色分けがされ、誰が観ても今どの場面なのかが分かり、また、曲中に入れる岡村のナレーションによって、字幕なしの原語上演でも誰もが物語を理解しながら鑑賞できた。
 「芸術鑑賞は非日常的なこと。日に三度の食事と違い、コストパフォーマンスだけでは人は満足しません。如何に我々のオペラが他のメジャー団体より安くとも、彼らと同等以上のものを提供せねばお客様は満足しません!今回の『魔笛』はこの困難なテーマを克服できたのではないかと、終演後10分も続いたカーテンコールで思いました。野球中継が延びて夢と消えましたが、NHK総合テレビが、"いっと6けん"で我々の『魔笛』紹介を企画したように、我々のオペラは世間に認知され始めてきたようです。来年は私の歌と口演で山本周五郎原作の浪曲風・新モノオペラ『人情歌物語---松とお秋』という誰も試みなかった企画、そして再来年はプッチーニ財団と一緒に世界初の原作の日本の誤認を訂正した『改訂版・蝶々さん』を再演します」
 公演後に語った岡村の言葉は、日本オペラ界の新しい兆しを感じさせた。

本目久子 MOSTRY CLASSIC編集部