2002年9月号 / 音楽の友より
(C)取材・文=音楽の友編集部 / 写真=堀田正矩

 チケットが高くて、興味があってもなかなかオペラを見る機会が無い、という人たちにこれほど嬉しいものはない。
「NPO・みんなのオペラ」はそんな庶民の味方なのだ。最高の舞台芸術と言われるオペラだが、もっともっと気軽に楽しみたいのに、都心に出てこないとなかなか見られないし、それになんといっても高価でお小遣いが・・・・・という一般庶民のものになりにくいのが現状である。それを改善すべく立ち上がったのが、上質・廉価なオペラを全国各地に提供することを目指した「省エネオペラ」なのだ。平成8年に発足以来数多くの観客を魅了し続けてきたが、このたび「NPO・みんなのオペラ」として特定非営利活動法人を設立し、更に充実した組織作りを目指すこととなった。
 なにしろこのオペラはイチから手作りである。公募によるオーディションで出演者を募り、舞台道具などもまったくの手作り。なるべくお金をかけないようにして、舞台装置も最少の移動で済むように工夫されている。というと、まるで学園祭のようなノリかと勘違いされるかもしれないが、これがまた上質・廉価オペラの名に相応しい内容なのだ。管弦楽は松尾葉子指揮/神奈川フィルハーモニーで、演出・日本語台本・ナレーションはこのオペラの総監督でもある岡村喬生が担当。出演者は皆すばらしい歌唱力で、そのうえみっちりと岡村喬生のレッスンを受けているので、これが上質でないわけがない。さらに歌唱は原語のドイツ語だが、レチタティーヴォは日本語によるものなので、初めてオペラを見に来る人も安心、内容を知らなくとも充分楽しめるようになっている。
 今年は7月に東京2公演、8月に山形2公演で、公開GPなども用意されている(なんと公開GPは本公演5千円のところ、3千円で観られる)。7月12、13、14日の3日間に上演された東京・江東区のティアラこうとうでの公演は、炎天下のなか大盛況となった。
まずはじめに登場したのがナレーションの岡村喬生。ここから本格的な《魔笛》の世界が繰り広げられて行く。歌唱、アンサンブル、合唱、演技、とその練習の成果が充分に伝わる上演で、また観客のほうも笑いどころでは遠慮無くウケるなど、上質・廉価+アットホームというようなあたたかい舞台が生まれた。このような会場の雰囲気も庶民のオペラ入門として非常によいだろうし、また気軽に足を運んでくれるきっかけになるに違いない。また、出演者にとってはオペラの舞台を踏むよい機会となり、将来の歌姫たちを育てる重要な場ともなっていくだろう。来年はプッチーニの《蝶々夫人》を上演予定で、これまた日本語とイタリア語の両方で歌う台本を作成中とのこと。原作にはない説明の台詞も盛り込み、さらに楽しく分かりやすい上質・廉価オペラを企画中。来年もまた楽しみな夏が来そうな予感だ。

 

●Interview
「NPO・みんなのオペラ」総監督
岡村喬生(Okamura Takao)

 本当にこのオペラはいろんな人がいますね。音大を出て国際コンクールで優勝したのもいれば、新国に出たのもいれば、一般企業の会社員もいる。経済的にはそりゃあ厳しいけど、そのためにNPOではサロンコンサートなんかをやって稼いで(笑)頑張っているんだ。不景気はメシ屋とタクシーと音楽会に最初に表れるというけど、そこで敢えてプロオケの演奏での本格的なオペラを廉価で提供する、ここに意義があるんだね。赤字覚悟!でも、いろんなアイディアで楽しい音楽をたくさんの人に気軽に味わってもらえるように提供する、これが楽しくて仕方ないんだね。

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(C)取材・文=音楽の友編集部 / 写真=堀田正矩

NPO・みんなのオペラでは、来年度公演のためのオーディションを行います。
詳細が決まり次第、みんなのオペラの中でご案内致しますので是非ご覧下さい。